拍手ログ・その1
1・十二宮点景
夜の闇が支配する十二宮を駆け抜ける三つの影
一度は死したものの、再びの生を得た表向きは反逆を
…しかしその心中に潰えぬ女神への忠誠を抱いたもの達だ
そんな中、カミュがポツリと呟いた
「以前にこういう話を読んだ事がある」
「どういうことだ?」
足を止めることなくシュラが問い返す
「一卵性双生児がアメリカとフランスに在していた時の事だ
その片割れがナイフで傷を負ったところ、もう片方が同じ場所に激痛を感じたらしい
もちろん、そちらは傷など負っていないにもかかわらず。だ
これを双子の共時性(シンクロニティ)というらしい」
思わず足を止めたシュラは怪訝そうに更に問う
「何故いきなりそれを言う?」
それを聞いたカミュはを止め、前を指差す
そこには何故か苦しそうに脂汗をたらすサガの姿があった
「先ほど、サガは双児宮の幻影を作ったのは彼の双子の弟だと言っていた
その人物は教皇の間に居るようだとも言っていた
そしてサガは今、何かに刺されたような激痛を感じているように見受けられる
つまり、今のサガの状態は教皇の間でその弟がミロのスカーレットニードルを受けている
私はそんな気がしてならないのだ」
それを聞いたシュラは微妙な顔をして黙り込んだ…そしてようやく口を開いてこう言ったのだった
「………この非常時に何をやっているんだアイツは」
※こんなときだけクールなカミュ
2・永訣のとき
依り代を離れ、冥界の最深部よりも更に深い場所『エリシオン』へと逃げ込んだ冥王ハーデス
そして彼を追い、嘆きの壁の向こうへと姿を消した女神・アテナ
彼女を追うには、ジュデッカへと集結した黄金聖闘士12人の力が必要とされる
だが、その代償が何であるのか生身のままここに至った5人は覚悟を決めていた
「お前達は、早くここを去れ」
「老師?!」
童虎の言葉に星矢と瞬は驚いたように声を上げる
何故そうしなければならないのか、それを告げられ、自分達に課せられた任を悟らせた
冥王との最終決戦の場に女神と天馬星座の聖闘士、そして冥王の器として選ばれた少年を送り出す
それは遠い過去の痛みを思い出させるものだと感じずに居られなかった
「一刻も早く沙織さんを追わなければならないのは分かってます
でも!老師だって感じておられるでしょう?!紫龍も氷河もすぐそこまで来てるんです
二人の小宇宙がもうはっきりと感じられるところまで!」
「紫龍とは地上で別れを済ませておる」
訴えかけるような星矢の言葉を遮り、そう告げれば二人は黙って唇を噛んだ
「ならば伝えてはくれぬか?血は繋がらずともお前は自慢の息子だったと」
それを聞くと小さく首肯いて黙り込む
「…あの…老師…氷河が近くに来ているのならやはり会っておきたいのですが…」
「老師のお気持ちを察してやれよお前は!!」
非常に真剣な顔で言い募るカミュの後頭部に容赦なく拳を入れてミロがツッコむ
「確かに…そこまで来ているのなら紫龍に会っておきたいような…」
「…いや、あいつは老師の愛弟子だろ?」
「その老師を差し置いて君が言う台詞ではないだろうに…」
ポツリともらしたシュラに対し、呆れたように答えるデスマスクとアフロディーテ
「……緊張感そがれるなぁ…もう」
「全くだな」
脱力したように呟いた星矢の頭に手を置き、同じような口調で返しながら髪を撫でてやるアイオリアだった
※老師は怒っていい(笑)
3・出会い
「少しいいか?」
かけられた声に、居室から出たシオンはそこに居た人物に会釈をする
「任務で遠出していたと聞いたのだが…確か…」
女神の化身である少女・サーシャを聖域に迎え入れた後、シジフォスが受けていた任は
5年前、冥闘士との戦いで消息を断ったままの獅子座の捜索だと聞いていた
しかしそれらしき人物の姿はなく、少し寂しげな表情を浮かべた青年の背には
聖域を出る際に持っていたシジフォス自身が纏う射手座の他に別の聖衣櫃があることに気付く
つまりそれは聖衣の主、彼が探していた獅子座の聖闘士はもういないということだ
「…そういうことだったのか」
「見たところ傷はないのだが、5年も風雨に晒されていたのでな、様子を見て欲しいと思ったんだ
この子を連れてジャミールへ寄るのは少し負担をかけそうだったが、聖域ならお前がいるのでな」
「この子?」
そう言われて初めてシジフォスの背後に隠れて立つ子供に気付いた
その少年は夏の空を思わせるような碧い瞳に僅かな警戒の色を浮かべてシオンを見ている
「心配するな、さっき話しただろう?聖衣に異常がないか見てもらうだけだ」
「だって…」
シオンとシジフォスを見比べるように少年は呟く、それを見てシオンは少年に歩み寄る
「…お前、名前は何という?」
「レグルス」
「そうか、私はシオンという。気になるのならばここで見ていけばいい、そんなに時間がかかるわけでもない」
シオンがそう言うと、レグルスは小首を傾げる様な仕草をして「うん」とだけ返した
それを受けて少し癖のある栗色の髪を撫でてやると猫の仔のように目を細めてされるがままにしている
その様子は子供らしく可愛いものだと思わず笑みがこぼれる
「そういう事だ、今から教皇に報告に行くのだろう?その間、レグルスは預かっておくから」
「すまないな、でも迷惑ではないか?」
「気にしないでくれ、こんな可愛らしい子ならばいつでも歓迎するから」
その一言は、シオンからすれば他意のない言葉だったのだがシジフォスは何か考えるように眉を顰める
「……そういえばカルディアが連れてきた…耶人…だったかな、あの子が年も同じで話が合いそうだな
天蠍宮に寄ってカルディアに引き合わせてもらえるか頼んでみよう…行こうか、レグルス」
「え〜?シオンもそんなに年離れてないって言ったじゃないか、それに俺『聖衣の修理』っての見たいよ」
「いいから」
そう言ってレグルスの手を引いて白羊宮を出て行くシジフォスを見送りながら
一体、自分の発言の何が彼の気に障ったのかと首を捻り、預かった聖衣を背負い作業場に向かったシオンだった
※何か危機感を覚えたそうです