聖域を見下ろすその場所に佇んでいる女神
彼女の帰還と、それに纏わる戦いから数週間の時が過ぎていた
跪き頭を垂れ、恭順の意を示す5人の黄金聖闘士にたおやかな微笑みを向け
彼らに立ち上がるよう促す
「そんなに畏まらなくてもいいのですよ、顔を上げてください」
そしてその美しい貌に僅かな陰りを滲ませ、言葉を続ける
「まだ…その時は来ていないのですから…」
女神アテナの降臨、それは地上を脅かす冥王ハーデスとの戦いが近いことを意味する
しかしそのハーデスは未だ地上における依り代を得た痕跡がないと女神は言うのだ
「このまま、あの者が目覚めなければ…これ以上の悲しみは起こらないのでしょうか」
戦いの中で失われていく聖闘士たちがもちろんそうであるように
冥闘士たち…依り代となるであろう少年にも彼らを愛おしみ、想う者は居るのだ
それらの命が失われずにすむのなら…戦いを司る女神ではあれど本望だと言う
「それはきっと…彼らの想いでもあるのでしょうね、私のために命を落とした者たちの…」
沙織はそう言うと淋しげに瞳を伏せ小さな呟きを漏らした
「逝ってしまった者達は生き残った者の幸せを願っていると思うのです…」
神殿を後にしてそれぞれが自宮に戻る道程、しばしの沈黙が彼らを支配していた
「…『逝ってしまった者達は生き残った者の幸せを願っている』か」
女神の願いがどうであれ、おそらくそう時を経ずして封印は失われ聖戦が始まるのだろう
「私たち聖闘士の生涯は大半が普通の人間のそれより短いものです。その短い生涯を
アテナの為、そして大切なものを守るため生きる意味を求めて戦うのだと…」
幼い日、そう教えてくれた人の背を思い出しながらムウが呟く
「だからこそ、生きている者達に幸せになって欲しいと願わずにいられないのでしょう」
ムウの呟きとアテナの願いは理解できる
事実、あの戦いで命を落とした者たちの中には、それを身を以て示した者もいた
「安心しろ、じきに怪我も治って立ち上がるさ」
親友がその全てを賭けて導いた弟子は生きてあの戦いの終局を迎えたのだ
この先の過酷な戦いも生きて乗り越えてくれるならば…きっとそう願っただろう
「次に会うときは氷河がどう戦ったか話してやるよ」
「生きていくというのは暗闇を頼りなしに歩くようなものだよ」
「お前がそう思っているとは意外だな」
ため息混じりにシャカが漏らした言葉にアルデバランは意外そうに片眉を上げた
「だからこそ我々は『アテナ』という光を信じ戦うのだと思わないかね?」
「そうなのかも知れんな…暗闇を生きて『光』を求める…アテナと『大切なもの』という光を」
それが何であるのか知ることはできるのだろうか、未だ年若い自分達に答えが出し難い問題だ
「生きて幸せになってくれという願い…闇の先の光…」
あの日、なぜ何も告げずに一人で出奔したのか、幼い自分はそれ程まで頼りないものだったのか
全てが明かされた後も澱のように残った問いかけの答えはまさにそれだったのだろうか
「生きて…その先にあるものを掴めと言いたかったのか?」
その答えは13年前に逝ってしまった兄だけが知っている事なのだ
「今度あなたに会う時、その答えを教えてはくれないか………兄さん」
〜あとがき〜
12宮戦後の沙織さんと黄金生き残り組(老師を除く)
シオン様のお言葉(「普通の人間より短い生涯」)には全く説得力がありませんw
それぞれの独白を書きたかったのです(シャカと牛さんは会話してますが)
リアとミロの独白、最後の「兄さん」以外は声に出してないんで色を変えてみた
ちなみに、リアが思い出した相手。最初の予定ではロス兄さんじゃなかったんですよ
やっぱり予定していた会話と回想はちゃんとSSにしたいと思ったので…
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今日と明日の狭間