何というか…意外な組み合わせだった
控えの間のテーブルを挟んで向かい合わせに座り談笑する二人の男
「…あれカノンだよな?」
「……サガはさっき書架で会ったからな、それに彼らは双子といえど別人、小宇宙が微妙に違う」
扉の隙間からその光景を覗き込みながら、ミロとカミュは言葉を交わす
「で、向かいに居るのはアイオロスだよな?」
「…あの二人、生前からの顔見知りだったとは一言も言ってなかったはずなのにな」
生前とは「生きていた頃」という意味ではないだろうか?とミロは思う
確かに黄金聖闘士は全員最低一回、最高三回は死んでる訳ではあるのだが
とは言うものの生来物事を深く考える事を苦手とするミロは、首肯いてもう一度部屋に視線を向ける



「お前達何をしてるんだ?」
「あまりそういう行為は感心しないぞ」
「生真面目っぽく見えるカミュも所詮は悪ガキの連れってこったな」
背後から声をかけられて振り向けば、年上の三人が呆れたような顔をして立っていた
「お前にだけは『悪ガキ』と言われたくないぞ、デスマスク」
軽く口を尖らせて抗議した後、ミロは室内を指差す
咎めるような言い方をしていた三人もそれに釣られて中を覗き込んだ
中では楽しげに何かを話している、いつの間に意気投合したのだろうか、と疑問が過る
漏れ伝わる内容に疑問が深まっていく
「ああ、確かにあれはたまらないと思った」
「私たちもまだ子供だったから、ついやりすぎてしまって教皇に怒られたんだ」
「あいつでもやりすぎる事があったとはな」
明らかに二人の会話の内容は聖戦どころか、アテナ降臨以前のような気がするのだ



カノンは聖域では隠されて育ったと聞いていたが、もしかしたら自分達が召し出されるまでは
普通に暮らしていたとでも言うのだろうか?と皆が首をひねる
そのあたりの事情に触れる事ができるだろうアイオリアは現在沙織の護衛で日本にいる
と、そこに怪訝そうな色を隠さないカノンの声が飛ぶ
「お前達、さっきから隠れて何がしたいんだ?まさか気付かれてないと思ってたのか?」
その声に促されるように部屋の外に居た者たちは連れ立って部屋に入ってきた
「ところで、二人はもしかして昔からの知り合いだったのか?」
「いいや、顔を合わせたのはアテナのご加護を受けて復活した後だよ」
ミロの言葉にアイオロスはあっさりと答える
「でも子供の頃の思い出話をしていた気がするのだが…?」
「ああ、それで立ち聞きなんかしてたのか」
合点がいったような顔をしてカノンは首肯いた



影として隠されて育てられたとはいえ、聖闘士として生まれたからには慈しみ、護る心をカノンに教えなければと
考えていたシオンだったが、影ゆえに兄であるサガとシオン以外の人間と接する事は皆無に等しかった
そこに訪れたのが候補生として召しだされたアイオロスとアイオリアの兄弟だったらしい
本来であれば修行に入るにふさわしい時期まではアイオリアは親元に残しておこうと考えていたのだが
アイオロスが聖域に迎え入れられる直前に両親が他界したため、同時に引き取られる事になったのだという
シオンは、そのまだ首の据わったばかりの赤ん坊を兄達の鍛錬の間だけ、カノンと共に過ごさせていたそうだ
「早い話、子守させられてたわけか」
「そうとも言う、初めのうちは「何で俺が!」って思ったのだがすぐに情が移ってな」
肩を竦めるデスマスクに苦笑いしながら言葉を返す



ああそういえば…と、皆が思い当たる事があった…アイオリアがよく
「何故、カノンは俺だけ子供扱いするのだ?下手をすれば貴鬼と同類扱いの気がするぞ」
と愚痴を零していたのだ、恐らくカノンにとってはその小さな赤ん坊の印象が消えないという事だったのだろう
アイオリアには気の毒だが、人間第一印象は大事である。もはや諦めるほかないだろう
そんな一同の心境に気付いているのか居ないのか、二人の会話はまだ続く
「そういえば、やたら甘噛みするようになったなぁと思ったら歯が生えてきたんだったなぁ」
「あったな、へらっと笑ったら下の歯ぐきにちょこんと白いのが見えてたんだったな、それがまた可愛くて」
「その頃はなんでも口に入れようとするんで大変だった、双児宮の鍵を咥えてたときはサガが慌てていて…」
「ああ、アイツがヨダレでべとべとになった鍵を持って帰ってきたんで、こっちはこっちで大笑いしたものだ
俺も貰った飴を舐めていたらそれを欲しがって、口の中に手を突っ込んで取ろうとしたんだ、あれは焦った」



止まりそうにない年長者の会話を聞いていたデスマスクはおもむろに衛星電話を取り出す
「止めてやれ、アイオロス達もただの思い出話をしているだけで俺達が聞いたのも成り行きに過ぎん」
彼の意図を察したシュラがそう言って止めようとするとアイオロスとカノンは怪訝そうな顔をする
「別に聞かれたからと言って俺達は疚しい所などないぞ?」
「カノンの言うとおりだ、そうだ!リアが帰ってきたら色々話してやるのも悪くないかもしれないな」
(止めてやれ!アイオリアには多分拷問だ!!)
5人の黄金聖闘士の心の声は見事に一致したのであった



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「帰ってきたか、カミュ…まぁ本来は聖域にて使う言葉かもしれないが」
日本の城戸邸にてアイオリアは軽く笑みを浮かべてそう声をかけた
「ああ、ところでお前はどうするのだ?確か休暇を頂いたと聞いたが…」
「そうだな、取り立てて用事もないからなぁ…聖域に戻って鍛錬でもしようと思っているのだが」
頬をかきながらそう返した同僚の肩に手を置くとカミュは真剣な目を向けた
「ならば日本でゆっくりしていくといい、きっと星矢たちも喜ぶだろう」
「確かに悪くないな、だが…それはそんな鬼気迫る表情で言う事なのか?」
小首を傾げて問うアイオリアに対し、カミュは心の中で日本に来て覚えたことわざを呟いた
『知らぬが仏』と…





〜あとがき〜
Novelsの女体化話の続きを書く前に、ちょっとした前提を含めた兄さんとカノン(とリア)の過去話
さすがのデスさんも、年長者二人の発言にリアに電話する事は出来なかったらしい(気の毒で)
ほとぼりが冷めるまで日本にいるよう説得しようと、カミュが日本に戻る前に皆で話し合ったとか…
後にこの事を知ったムウ様
海皇軍との戦いには『違う意味で』リアを派遣すればよかったと思ったらしいです





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