それは教皇の間に続く通路に落ちていた
拾い上げたその紙切れは色の抜け落ちかけた写真
「これは、アイオロス…こっちはアイオリアじゃないか?」
そこに写る人物には見覚えがありすぎる
アフロディーテは少し感嘆めいた声でそう言った
「やはりか、お前もそう思うか!これは説明してもらわねば!!」
「説明も何も、見ての通りあの二人だとしか……待て!ミロ、まさかお前?!
……なぁシュラ、あいつは何か勘違いしていると思うのは私だけかな?」
「いや、俺もヤツはとんでもない勘違いをしていると思う」
走り去ったミロの背を見送りつつアフロディーテとシュラは溜息をついた
「それで、アテナは次の休日においでになられるというわけか」
「ええ、私たちが帰還する折に一緒にとのことらしいです」
教皇の間の奥まったところにある執務室に集まった面々は
書類を手に日本にいる沙織の報せの内容について会話をしていた
するとそこに慌しい足音共に扉を開く音がして、一同はそこに目を向ける
「おお、帰ったのかミロ、カミュは元気にしてたか?」
「合コンとか言う集まりに誘われるのが面倒だと愚痴ってた…いやそれはいい
今はアイオロスに話があるんだ」
「兄さんに?」
意を決したようなミロの様子に、怪訝そうに眉根を寄せたアイオリアを尻目に
机から椅子ごと身体を離して伸びをしていたアイオロスに歩み寄る
「私に話とは?」
「あんた…13年前には既に子供を作ってたのか?!」
ミロの顔にアイオロスの足裏がめり込んだ
「当時は14の少年だ無理を言うな、少し考えれば解りそうなものだろうに…」
こめかみを押さえつつシオンは呆れたように声を出した
「14といえば氷河や紫龍と同い年だぞ、常識でものを言え」
「まぁ…ミロに考えて行動することを言っても無駄ですよ」
同い年の同胞たちも同じように呆れ返った声を出している
「一応、形ばかりの擁護をするならばミロはコレを見て勘違いしたのだよ」
アフロディーテがその美しい貌に苦笑を交えて取り出した写真をアイオロスに手渡す
「………ああ、これか、懐から落ちていたようだな」
それを受け取ったアイオロスは懐かしそうな目をしてアイオリアを手招きした
「お前に渡そうと思っていたんだ、20年前に洗礼の後で撮ったものだ」
写っていたのは一組の夫婦と幼子、そして母に抱かれた赤ん坊だった
「…この二人が…俺たちの父さんと母さん…なのか…」
その二人の顔は憶えていないはずなのにひどく懐かしい
やはり魂の奥深い何処かに温もりの記憶が残っているのかもしれない
アイオリアはそう思いながら写真の中で微笑む二人を見つめていた
「それにしても二人とも驚くほど父親似なんですね、ミロは父君とアイオロスを間違えた、と
とはいっても、この子供はどう見てもアイオロスでしょう?アイオリアはこんな利発そうな顔ではない」
「……お前とは一度ゆっくり話がしたいと思っていたんだ」
感慨に浸っていたがムウの軽口に思わず本気で返しかける
「両親の写真か、しかしよく残っておったな」
「この1枚だけですが聖衣箱の内側にくっついていたのです」
「私はそういう意味で…いや、今はいい」
曰くありげな二人の会話に他の者は眉を顰めるが、その『曰く』に関して二人が話すことは無いだろうと思った
「あ、もしかしてあの時兄さんが言ってたのはこれのことか?」
ふと思い出したようにアイオリアが言うとアイオロスは小さく笑みを浮かべて首肯いた
「あの時?」
「ああ、いや、二人だけの秘密って事で」
首を傾げたサガにアイオリアは曖昧な笑みを浮かべて言葉を濁すが、ムウはその言葉で何かを思い出したらしい
「そういえば聖衣を授かった日『今年のクリスマスには特別なものをくれると兄さんが言った』とはしゃいでましたね」
「ふ〜ん、確かに1枚しか残っていないという両親の写真ならば特別なものだね」
ムウの言葉にアフロディーテは得心したように微笑む
「確かにあの年のクリスマス前にはアイオロスは死んでたし、肝心のクリスマスはアイオリア軟禁状態だったもんなぁ」
そりゃ渡すものも渡せないだろうなぁ…と納得するミロにムウとアフロディーテは
「「何のためにこの二人が言葉を濁したと!!」」と心中でツッコミを入れ
サガとシュラは
「「本当に色々申し訳ない!!」」と土下座したい気分に陥ったらしい
〜あとがき〜
ミロが最初から最後までアホの子に…いや…一応ツッコミ属性もあるんですよ、親友絡みでは
あとロスリア兄弟は年の差があるので兄さんは両親の顔を覚えているのでは、とか
リアは肉親といえば兄さんしか知らずに育ったのでは?とか思ったのです
そして彼らは間違いなく父親似だと思う。お父さんの遺伝子最強ですねw
ちなみに写真はこの後、沙織さんが複製(+退色部分を復元したもの)を作ってくれたそうです
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そのままの君