聖域での生活にも大分馴染んできた幼い女神は
明け方の散策の途中で何か言い合う声に気付いて声の方に向かった
「あら?あの二人は…」
そっと茂みから顔を覗かせれば、言い争う声の主達は
しばらく前に引き合わせてもらった黄金聖闘士の二人だと判った
「あの…何をしてるんですか?」
恐る恐る声をかけると、向こうも自分の存在に気付いたらしく慌てて居ずまいを正す
「アテナ様、お見苦しいところを見せてしまいました」
「いえっ!覗き見のようなことをしてしまった私も悪いんです、ごめんなさい!」
片膝をつき、頭を下げる美貌の戦士にサーシャもまた慌てて謝意を告げた
「それよりも、ケンカでもしたんですか?」
愛らしい仕草で小首を傾げる女神に瑣末なことで煩わせては…とアルバフィカは思案する
「いえね、たいした事じゃないんですよ、アルバちゃんがちょっと疲れてるようだなって」
「だからその呼び方を止めろと言っているんだ!」
茶化すように割り込んできたマニゴルドに思わず口調を強めると、サーシャは不思議そうな顔をした
「アルバフィカ、その呼び名は好きではないんですか?私は素敵だと思いますが」
「…は?」
意外な言葉に虚をつかれたような声を出すと、少女は言葉を続ける
「だって、私の故郷では『アルバ』という言葉は、夜明けとか始まりって意味なんです
セージにマニゴルドは私と同じ国で生まれ育ったと聞いてるから、きっと好意の現われなんだと思ってました
だって、孤児院のシスターが言ってたんです。名前には付けてくれた人の思いがこもってるって」
にっこりと笑って、答えるサーシャにマニゴルドは笑いながら答える
「さすがはアテナ様、それに気付かれるとは素晴らしい」
「やっぱりそうだったんですね!」
(いや…絶対この男はそこまで考えちゃいないんです、アテナ様)
反論したい気持ちは山々なのだが、あまりにも嬉しそうな笑顔を浮かべる女神にそれを言うことは思い留めた
そんな時二人は、彼女が小さな体には幾分大きすぎる手籠を抱えていることに気付いた
「散策の途中だと仰ってましたが、その荷物は?」
「さっき、そこで食物を届けに来た村の方に果物をいただいたんです」
「それならば雑兵を呼びますから運ばせましょう」
「いいえ、このくらい自分でやらなきゃいけません、私より小さい子でもちゃんと運べるんだから
…それに、あんまり朝早くから遊びに行くと呆れられるけど、今日はこれを届けるって口実があるんです」
どうやら、彼女は年の離れた友人のように接してくれると懐いている天蠍宮の主の元へ行くつもりらしいと察する
リンゴはカルディアの分、他は自分や、天蠍宮によく顔を見せるデジェルと分けるのだと笑顔で言い置いて走り去っていく
「…お師匠に、アテナ様はカルディアにやたら懐いてるとは聞いたが…予想以上だな」
「………あれには悪いが精神年齢が近いのだろう、と言ってもアテナ様はまだ9歳なのだがな」
「いや、本当に女神様ってのは俺達の上を行くんだな、まだ子供だってのに」
肩を竦めるようにそう呟いたマニゴルドに対し、アルバフィカは怪訝そうな顔をする
「サーシャ様は『名前には付けてくれた人の思いがこもってる』と教わってたんだろ?で、お前の名前のことに思い至った」
「何が言いたいのだ?」
その言葉に意外そうな顔をしたマニゴルドは言葉を返す
「聖闘士ってのは任務であちこち飛び回るもんだから、最低でも近隣の国の言葉くらいは頭に叩き込んでる
…お前の育て親だった師匠もそうだったんじゃねぇか?」
「…先生がイタリアの言葉を意識したと?」
「そりゃ、それは当人にしか解らんだろうよ…けど態々そういう意味のある言葉と魚座にとって意味のある白と同じ綴りで
別の意味のある名前ってのは面白いと思うけどな…ん?どうした」
「教皇様に謁見するまでには数刻ほどある。だから薔薇園に寄って行こうと思っただけだ」
「そっか…じゃあ後でな、アルバちゃん」
「……『ちゃん』は余計だ…」
それだけ言い残し去っていく同胞を見送りながら、マニゴルドは口の端を軽く上げる
「いや、さすがアテナ様…ちゃん付けやめろって譲歩引き出してくれたんだからなぁ」
〜あとがき〜
偶々、調べ物をしていてALBAという言葉がラテン語の『白』以外にも意味があると知って
正確に言うとイタリア語だけでなくスペイン語でも『暁、夜明け、始まり』という意味があります。フランス語だと『Aube』…化粧品か
個人的にはルゴニス先生が意味を解っていてダブルミーニングでつけたのならいいな。と思います
朝