小宇宙が激しく燃えた、燃えた結果海底神殿の気温が一気に下がった
カノンは軽く眉を顰めながら立ち上がる
確か先ほどジュリアンとそれに同行していたソレントが帰還したばかりの筈
だとすれば帰還早々、ソレントがアイザックを激昂させたとしか思えないのだが
「どうしたんだお前ら」
「あ、もう聞いてくれよ海龍!」
「ソレントがアイザックを怒らせたんだよ、どうでもいいようなことで」
執務室のドアを開け、問いかけたと同時にイオとバイアンが駆け寄ってきた
やっぱりか…その言葉を飲み込んで軽くこめかみを押さえる
さて、どうしてくれよう
「……で?お前は宿題を片付けるためにここに来ていたのは知っている」
「はぁ?女神が用意した部屋に水瓶座と白鳥座の三人で住んでるんでしょ?
勉強もまともにできない部屋なんですか?」
「そんなことはない、ただわが師が大学のレポート提出前で忙しいから
邪魔にならないようにしているだけだ、氷河も女神の邸宅に泊ってるしな」
「カミュの事情は今はどうでもいい、私が聞きたいのは何で喧嘩をしていたかだ」
僅かな苛立ちを紛れ込ませたカノンの言葉に二人は身を竦める
これ以上誤魔化そうとして口喧嘩を続ければ拳で黙らされる。と判断したからだ
事の発端はイギリス滞在時にテレビで流れていたコメディアンの歌だという
で、戻ってきてその歌を披露してくれたらしい
さすが元音楽学校の生徒、専攻がフルートだったとはいえソレントはかなり歌が上手い。
その美しい歌声で船乗りを惑わしたという伝説のセイレーンに相応しいと言える
だから歌声の良し悪しでアイザックが不快感を覚えるはずもない
いや、アイザックはそのような事で不快を覚えるような狭量な少年ではない
多少短気な部分はあれど、真っ直ぐで気持ちのいい性格だ
このあたりはカミュの育て方が良かったのだろうとカノンは結論付ける
だとすれば歌の内容に彼を不快にさせた何かがあるのだろうと思う
「その歌のCDでいいから貸してみろ」
「…………成程な…」
これはアイザックが怒るのも無理はないだろう、そう思ってカノンは溜息を吐いた
他愛もないコメディソングだ、しかし冗談の通じにくい少年にこれはないだろうと思う
簡単な英語で構成されたその歌はアイザックの郷里を題材にしている
それは問題なかろうが歌詞の内容は他人事なら笑えるが
当人に笑えるかどうかは傍目には判り辛いといった所だろう
これに似た内容の歌がギリシャを題材にしていたら自分は複雑な気分になるだろうし
冗談の通じない双子の兄や獅子座の若者は、今のアイザックと似た反応を示す気がする
別にソレントに他意はなかったのは解る、元からそのコメディアンのビデオを見ていたから
彼がそれを好きなだけで、嫌がらせとかそういうものではない
第一、ソレントが本気で嫌がらせを企めばアイザックはしばらく立ち直れない程度の仕打ちを受ける
「もういい、お前らは持ち場に戻れ、ソレントこれは聴くだけにしとけ。いいな」
「はい、まったく短気なんだから…」
微かに頬を膨らせて帰っていく二人の姿を見送りつつカノンは思った
日本で聞くことのなさそうな歌でよかった。と
〜あとがき〜
海の人たちの小話です。ソレントはああ見えてコメディ好きだと良いと思う
アイザックを怒らせた歌はモンティ・パイソンの『フィンランド』です
あの歌、フィンランド人は怒っていいと思うw(巻き添えなベルギー人も)
日本では谷山浩子さんが和訳したものを歌っています
意訳じゃありません。ほぼ直訳です。やっぱりフィンランドに失礼ですw
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うた