「気分転換にでもなればと思ってな」
飾り気のない箱を手にしたカミュはそれの置き場所を思案した
「考え事より体を動かすほうが楽などというと、よりによってな奴らに笑われるのだが」
ちょうど、リビングで教科書やノートを広げていた青銅の少年たちは首を傾げた
「え〜と…気分転換の結果がその箱の中身なのか?」
星矢の言葉にカミュは首肯く
「ちょうど材料があったのでギモーヴを作ったのだ」
「それならココアを入れてきます」
それを聞いた氷河はどこか嬉しそうに立ち上がるとキッチンに向かった



先ほどの氷河の反応からすると、中身は菓子類らしいと少し期待する
「修行時代、カミュがよく作ってくれたんだ」
その場に混じっていた(宿題を手伝わされていた)アイザックが説明する
「でも、初めて聞く名前だね」
「なんかすっげー期待しちまうよな」
「多分、皆も知ってるようなどこにでもあるものだよ」
目を輝かせて箱を見る少年たちに、苦笑いしながら箱を開けて見せる
中に入っていたのは見るからに柔らかそうな白が結ばれたもの
「……これはマシュマロ?いい匂いがする」
紫龍はそれをみると率直な感想を述べた
「っぽいのではない、お前たちがマシュマロと呼んでいるんだよ
別に私が作ったのはそんな高級なものではないのにな」




ふわふわと、まるで雪が解けるようにカップの中で形を失うそれに顔が綻ぶ
「やっぱりこれが一番好きだな」
そう言いながら氷河が溶けていく白を指先でつつくと、行儀が悪いと兄弟子が軽く睨む
「紅茶に入れても美味しいと思うな」
「紅茶に入れるのはヴァレニエだと決まっている」
瞬の言葉には至極真面目な顔で主張する
「ヴァレニエ?」
「ロシアのジャムだ、紅茶を飲みながら舐めるんだ」
「舐めるのかよ」
「中に入れてはせっかくの紅茶が冷めてしまうだろ?それでは体が温まらない」
言われてみればもっともなその説明に皆得心したように首肯いた



甘さを抑えたココアの中に雪景色を描くように広がった白は口の中で優しい甘さを広げた
他愛もないことを話しながらテーブルを囲んでその甘さを楽しむ
『平和』という言葉はこの光景のことだ
神々の慈悲か気まぐれか、それでも与えられたこの日々は愛しむべきものなのだ
そう思い、カミュは少年たちを眺めながら微かに笑みを浮かべた
そしてカップにもチョコレートポットにも残りが少なくなっていることに気づき
キッチンへと向かった




〜あとがき〜
カミュと青銅たち(+アイザック)の何気ない日常です
キャラトークにて詳しく書きますが、沙織さん基本は日本にいるので
カミュが護衛として常時付き添う役目を引き受けてます
表向きは留学生兼中等部留学生コンビ(弟子)の保護者

あと『Guimauve(ギモーヴ)』は日本をはじめとする国々では
ジャムなどをふんだんに使った、しっとり感の強い高級マシュマロを指しますが
フランスでは逆に高級なものをマシュマロと呼ぶらしい
シンプルなマシュマロを細く切りそろえて結ぶ、駄菓子チックなものがギモーヴだとか
伝聞なので詳しいことはわかりませんが…

あとヴァレニエは普通のジャムと違い、果実の形はまったく残らないほど煮詰めるそうです
コンフィチュール(フランスのジャム)と正反対ですね



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ココア