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カフェテリアでのカノンとアイオリアの言い争いに周囲の客の視線が集まり始め
ボーイらしき人物が彼らの元にやってきた、それに気付いたカミュは
流暢なフランス語でこう説明したらしい
「妹の婚前旅行に納得のいかない兄が仕事で動けないから、友人に妹を連れ戻すように頼んだだけです。ご心配なく」
と…サガが居たならば、肩を震わせて笑いを堪えるのに苦心しただろうが
ここに集った面子にフランス語を解するものは居ない(弟子達との会話は、ロシア語かギリシャ語)
それを解していたならばミロ辺りが的確なツッコミを入れていたはずだ
「まぁ、やっぱりここに居たのですね!一番のお勧めだったから嬉しいわ」
涼やかな声に振り向くと、そこには二人の少女が立っていた
「沙織さん!どうしたんだよ」
「ジュネさんも!授業終わったんですか?」
星矢と瞬の言葉を受けて沙織は柔らかく微笑みを浮かべ
居ずまいを正した黄金聖闘士たちに楽にするよう促す
「皆の小宇宙が一つの場所に集まっているのを感じたので、報告のあった件に関係していて
私に出来る事があればと思ったんです、案の定複雑な事になってるようで」
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
「貴方達が私を護ってくれるのと同じように、貴方達の力になるために私が居るのです」
そう言って微笑む女神に皆はますます恐縮する
「ここへ来る途中、シオンに状況の説明をしてもらいました…アイオリアこちらへ」
それに答えて傍に来たアイオリアに沙織は何事かを耳打ちし
アイオリアは僅かに怪訝そうな色を浮かべ「それが戻る手立てになる、と?」と問い返す
「ええ、要はそういうことですから、アイオロスが懸念した手段でも間違いではないのですよ」
沙織の言葉に得心したように首肯きながらアイオリアはシュラの下に歩み寄り耳打ちをする
聞かされたシュラもまた怪訝そうな…かなり困惑した表情を浮かべる
「では、そういうことですので……大変でしょうけど頑張ってくださいね」
心配半分、面白がっている風情半分の笑みを浮かべると沙織はその場を辞す
「あれ?ジュネさんは沙織さんと一緒じゃないの?」
「ええ、この後の会合は教皇が付き添いなさるそうだから今日はもう任務完了なの…ほら」
彼女の視線を向けた先に立っているその姿を認め、駆け寄ろうとするが
彼らの行動に気付いたらしいシオンは視線だけでそれを押し止めた
『……同情せん訳ではないが、あまり時間をかけるのはアテナにご心配をかけるからな』
小宇宙だけでそう語り掛けてきたシオンに対して
「そりゃ貴方は既に元に戻られてますがね!」
と心の中だけで言い返したアイオリアとミロだった
「さて…ではアテナのおっしゃった方法を試すか…すまないシュラ協力してくれるか?」
「ここで断るくらいなら聖域の時点で断っている…だがその前に…お前達は帰ってくれ後生だから」
アイオリアの髪を撫でてやると、シュラは他の面々に向き直りそう告げた
「お前は、何故俺がこいつを連れ戻しに来たと思っているのだ」
「あんた達が心配するような事はしない、アテナの御名に賭けてそれは断言できる」
主君の名を出されては、流石にカノンといえどそれ以上強く出ることは出来ない
「ならばいい、そういう訳だから帰るぞ、お前達」
その一言に、皆が慌てて皿の上のケーキだのプリンだのをコーヒーで流し込み席を立つ
バタバタと慌しく去っていく同胞たち(+1)を見送ると、二人は顔を見合わせて吐息を漏らした
「さて、この辺りなら気付かれないだろう」
「帰るのではなかったのか?カノン」
吹抜けのカフェテリアを見下ろせる中二階の植え込みに身を隠しつつ呟いたカノンにミロが問う
「そんな訳にいくか、確かにシュラの性格からしてさっきの言葉は誤魔化しなんかじゃなく本気だろう
だがあいつが『大丈夫』と思ってることが俺達の許容範囲かは別問題だ」
「……前にも言ったがアイオリアだって、あなた方が知ってる時代より成長しているのだぞ」
問いかけに返された言葉にカミュが呆れたように突っ込んだが
『アンタが言っても説得力に欠ける』
と他の面子(氷河&アイザックを除く)は思っていた
まさか見られているとは気付いてない二人は、ウェイターを呼び何かを頼んでいるようだった
「パフェとかは注文しなきゃいけないんだよな…まさか昼間っから酒とか?」
「あの二人に限ってそれはないだろ、つかアイオリアはサバラン食っただけで酔っ払うくらいだし」
器用にプランターに肘を置き頬杖をついて星矢が呟くと、ミロが肩を竦めて答える
「僕もプリンアラモード頼みたかったなぁ…」
しばらく経ってテーブルに運ばれてきたものを確認した瞬がポツリと漏らした
「……まさか…アテナが仰った方法は…うっわ〜そうだとしたらあいつら災難!」
瞬の呟きに何か気付いたらしいミロは何故か笑いを堪えるようにそう呟いた
「確かにカノンが心配するような事にはならないな」
それを受けてカミュもまた口元を押さえ、笑いを堪えるように言葉を紡いだ
小宇宙を断ち、カフェテラスにいる二人を観察する面々は次の行動に関心を向ける
遠目にもはっきり判るほどに顔を赤くしたアイオリアが生クリームを匙で掬い取って
それを向かい合って座るシュラの口元に運び、やはり顔を赤くしたシュラがそれを口にする
つまり「はい、あ〜ん(はぁと)」とかそういう類のものだ…聖域でもトップクラスの堅物コンビにこれはキツい
気の毒だと解ってはいるのだが、傍から見ている者たちは声を殺して笑うしかなかった
「紫龍、今度の週末は老師と春麗さんこっちに来るんだろ?」
「…いや、絶対やらないぞ俺は…」
「良かったじゃないですか、アイザックの言う『保健体育の分野』じゃなかったんだし大目に見ても」
「ああ、そうだった…彼らは正式に階位を授かって戦士としては一人前と言ってもいい
しかしまだ、それ以外では子供なのだ。おかしなことを吹き込むのはやめて欲しい」
邪武の言葉に笑いを押し止めたカミュが思い出したようにカノンに抗議する
カノンはそれを聞くと眉を顰めてアイザックに向き直った
「だから、いつも言ってるだろう…そういう話になったらその場を離れろ。と」
「解ってるんですが…カミュに変身して『ちゃんと話を聞け』とか言われたら頭で解ってても…」
アイザックの言葉にカノンとカミュは剣呑な表情で顔を見合わせる
「カミュ…この一件、形がついたら海界に招待しようと思うが…どうする?」
「それはありがたい…一度、海皇に挨拶をしておきたいと思っていたのだ」
(絶対、会いに行く相手はポセイドンやジュリアンじゃない!!)
当事者三人以外が確信に近い思いで、そう感じた事は言うまでもない
さて、一方「外人さんはやっぱり大胆ねぇ」などと言われつつも、あの調子で(中盤以降は半ば自棄で)
別注のデザートコース(計7品)を完食した二人がロビーを抜けてホテルの入口に出てくると
先ほど追い返したはずの面々が掲示板らしきものに見入っている
「……帰ったんじゃなかったのか、お前ら」
「帰っても良かったんだけどな、デザートバイキングの別注メニューにお子様組が反応してな
仕方ないから、お前ら出てきたら仕切りなおそうって事になったんだよ」
苦笑いしながらミロが掲示板を指差すと、別に注文するメニューを一覧(写真つき)で表示してある
「やっぱチョコパフェだよな…もちろん特大のヤツ!」
「バカ、ヨーグルトパフェの方が美味そうだって、チーズケーキ乗ってるし」
「僕、プリンアラモードがいい」
「点心があるんだな」
「アイスクリームプレートって、自分で取ってくるやつとどう違うんだろうな」
「チョコフォンデュもいいと思うが…一人分には…なってなさそうだな」
「あたし、フルーツサラダっていうのが気になる」
子供扱いされても意に介さず、楽しそうに話す様子は歳相応に可愛いものだと微笑ましい気分になった
「あれ?ところでカミュとカノンは?」
「カミュが一回ポセイドンに挨拶しときたいからって、カノンと一緒にカーサを締めに海界に行った
帰ったらフランスの焼き豚作ってくれるってさ」
「…ああ、例の『保健体育』発言か…カノンはノータッチだったんだな…」
翌朝、城戸邸の自室にて目を覚ました黄金聖闘士の二人は無事にもとの姿に戻っていた
青銅+1がデザートの食べ過ぎで夕食が入らず、ミロ共々デスマスクとムウに説教されたとか
デザートバイキング参加組はウェイトオーバーの為、しばらく鍛錬メニューが倍になったとか
海界ではカーサが原因不明(?)の凍傷&全身骨折でしばらく寝込んだとか
妖魔は沙織と偶々遊びに来ていたジュリアンの手でかなり面倒な封印を施されたとか
ちょっとした後日談を残して事件は解決したのだった
〜あとがき〜
ドタバタというよりはグダグダ…orz せっかくの女体化なのに色気も何もあったものじゃありませんね
兄さんとカノンの懸念=『保健体育分野』ですw持って回ったような表現をしなくても…とミロ辺りは思ってますが
あからさまな表現をするとギャラクシアンエクスプロージョンとオーロラエクスキューションが合せ技で飛んできます
海のあの人は多分それを身を以って知ったのではないでしょうか…
最後の『フランスの焼き豚』は冒頭でカミュが作ろうと考えていた『ロティ』の事です…焼き豚違うぞ、星矢
フランスの一般的な家庭料理だそうです、本来は1日くらい漬け込んどくようですが
多分、真空ポットとかで時短してるんですよ…弟子が食べ盛りだし
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